負けない

昨日は長旅だった。朝の三時に起きて次の朝の3時まで一睡もすることなくここから500キロ離れた場所まで遊びに行って帰ってきた。久々に見上げた高層ビル、ただただ長い貨物列車とは違った2両編成の路面電車、夜の街に煌々と光るネオンを目にして都会の空気を久々に吸うことが出来た。ノスタルジックな気持ちにさせられてちょっと寂しい気分になったりもしたけれど総じていい旅だった。

東京に帰りたい。残り半分になった訓練だけど、やっぱりこの気持ちは拭い切れないというか忘れ去ることが出来ない。今を一番幸せだと思って生きることが大事なのは理解しているけど、心のどこかで東京へ帰りたい気持ちがなんとなく寂しい気持ちにさせる。今回久々に大きなショッピングモールや大きめの街、1か所に集まるたくさんの人々を見てその気持ちを大いに掻き立てられた。

時々、全部投げ出したくなる。到達しなきゃいけないところは遥か雲の上にあって、自分はお空の低いところで醜く飛び回っている現状に、匙を投げて全部やめて、東京でのうのうと暮らせたらどんなに楽だろうと思う。両親の温かい庇護、誘えばやってくる友人たち、刺激に欠くことのない東京の街…。東京で住むことの大変さを知らずに、その良さだけを享受出来たあの頃にいつだって帰りたい。

明日からまた訓練が始まる。年末年始は3日くらいまた休みになるけど、前に書いた通りパイロットにお休みはないのだ。飛んでいなくともいつだって自己管理と技量の向上、知識の習得に努めなければいけないし、訓練生のうちは休んでいる暇なんてない。明日からとにかく心に留めないといけないのは絶対に負けないという強い気持ちだ。最短ルートを走るあまりに、青くて未熟なうちからこの厳しい世界に片足を突っ込んでしまった。日本の友人たちの生活の様子をSNSで見てると自分の満たされなさにしんどくなるし、訓練が上手くいかない日が続くと心がくじけそうになる。

残りの日々も今までと同じ、というかより一層、飛行機のお勉強を頑張って教養の勉強も自分で続けて、やさしさについて考え続けて人間性も向上する、運動もして体力をつけて音楽もないがしろにしない。御褒美の少ない日々だけどとにかく負けなければよいのだ。逆境こそ僕が常に望んでいるもの、雲の上の人間になるには逆境を超え続けるしかない。